フィリピン、マレーシア、インドネシア、東ティモール、パプアニューギニア、ソロモン諸島にわたる三角形状の海域で500種以上のサンゴと2500 種類以上のコーラルリーフフィッシュが生息するといわれています。コーラルトライアングルは多様な海洋生物の宝庫であり、赤道直下の強烈な太陽光線を浴び て豊富な植物プランクトンが酸素を発生することから海のアマゾンとも呼ばれています。酸素の発生量も多いことから地球の酸素の1/6を生成するといわれて いるアマゾンの森林とともに地球規模の環境の保護が必要なエリアです。コーラルトライアングルイニシアティブや WWF等の管理のもと貴重な海洋資源の保護プロジェクトが進行中です。赤い「Boundary」で囲まれた範囲が実際の保護対象エリアです。
"Coral Triangle"! : The global center of marine biodiversity!
■ エリア別の推定海洋生物種 (深海を除く)
Solomon Islands:490 Coral species
Papua New Guinea Kimbe Bay : 350 species of hard coral 860 species of reef fish
Raja Ampat : 540 coral species 1074 species of reef fish
Komodo : 350 coral species 1000 species of reef fish
Treasure trove of marine life
■ 最も豊かな海洋生態系
コーラルトライアングルは世界で最も豊かな海洋生態系を有するエリアといわれています。長い年月を経てコーラルトライアングルの複雑な海流と海底地形が多くの生物を育んできました。この海域が最も多様な生物と出会えるエリアといわれており世界中の ダイバーが押し寄せてきています。
熱帯のコーラルリーフフィッシュはサンゴ礁に囲まれた島々や環礁の多いコーラルトライアングル周辺で進化、多様化して、太平洋の島々に移動して定着したといわれています。二億年前にはこのあたりテチス海と呼ばれ、 地球上で数少ない赤道直下の浅瀬でした。また海面が現在より百メートル程低い2万年前の氷河時代にはここは オーストラリア、パプアニューギニアの陸塊と東南アジアの陸塊を二分する大きな海峡でワラセアと呼ばれています。
■ スンダランドとサフルランド
この東洋区のスンダランドとサフルランドと呼ばれるオーストラリア区の生物相を2分する線をウォレス線といい、セレベス島とボルネオ島の間とバリ島とロンボク島の間にて生物相を二分しています。 哺乳類の分布においてはボルネオ島にまで象が生息する一方、オーストラリア陸塊のサフルランドには巨大な肉食の哺乳類は存在せず, 有袋類や陸棲の鳥が多く生息することが有名です。 一方、ウォレス線の東側には貝類や哺乳類の分布の違いをもとに2分されたウェーバー線もあります。 二つの境界線はどちらが正しいということではなく、東西で異なった種類の生物がおり、この周辺の生物の多様性を示している一つの指標となっています。現在 も陸上だけでなく、コーラルトライアングルの海域には地球上でほぼ唯一、栄養分豊富な赤道直下の熱帯雨林の島々と深い海溝が点在しています。 またスンダランドとサフルランドから異なった栄養分が流れ込むこともウォーレシアの海洋生物の多様性の一因と言われています。地理的にも火山島を中心とした多くの島々の間 を海流が流れ、複雑な海底地形をも形成しています。サンゴと コーラルリーフフィッシュの種類と生息数はまさに地球が作り上げた貴重な財産です。環境の保護を徹底しないと100年以内にこの海の生態系は消滅するともいわれています。
Fish diversity in Coral Traiagle : Rich water in Indonesia and Philippines
Numbers shown below are estimated numbers of inshore fish spices in the area
上のチャートの数字は太平洋の島々の周囲におけるコーラルリーフフィッシュの種類数とその拡散の調査結果の一つです。ワラセアとフィリピンのベルデ海峡あたりの海域がコーラルリ-フフィッシュやサンゴの種類が最も多いと言われています。
逆に青い海で有名なエーゲ海の海域は植物プランクトンが少なく、
それをエサとする動物プランクトン、さらにそれをエサとする小魚も少ない「貧栄養」状態です。
それは文明が森林を切り開き、放牧を始めたためにエーゲ海の周辺には豊かな森林がなく、生物に必要な窒素やリンなどの栄養分が海に入ってきません。
また、地中海地方は温暖で対流が起こりにくいため、海底からの有機物等の栄養の供給もあまりないと言われています。船から眺める海は美しいですが海中景観は生物も少なく、あまりダイビング向きとはいえません。
Another secret of biodiversity
■栄養分を巻き上げる貫流
コーラルトライアングルの生物多様性のもう一つの秘密は世界最大級の貫流(throuflow 流水量)です。太平洋からの流水がインドネシアの海水盆地を通過するときに、深い海の栄養分を巻き上げます。複雑な島々の間の表層上の海流の動きだけではなく、巨大な水量が深海盆地を通り過ぎたあと、狭く浅い海峡を速度を上げて通り抜けて行くことがこの海域の大きな特徴です。
インドネシアの貫流の重要な特徴は、赤道付近の西部 太平洋の海流が暖かくて新鮮な大量の水をインド洋に運びます。インドネシアの貫流(ロンボク海峡、オンバイ海峡、ティモール航路を通る)がインド洋に入ると、インド南赤道海流となり、最終的にインド洋を出て南アフリカを経て太西洋にまで向かいます。インドネシアの貫流は、ロンボク海峡から約10,000 km(6,200マイル)も離れた南西インド洋に太平洋の熱量を運びます。
The Indonesian Throughflow transports 15 Sv(15million cubic meter seawater every second)
巨大な貫流水量による豊富な海中の栄養源
Numbers shown above are Sv. in Indonesia
■海洋学において、スベルドラップ(記号:Sv)は海流の体積輸送速度を測定するために使用されます。1Svは毎秒100万立方メートル(260,000,000 US gal / s)に相当します。この単位は海洋学者のハラルド・スヴェルドラップにちなんで名付けられました。
■バリ島とロンボク島の間のウォーレス線沿いの海峡は氷河期以前にも海峡であったため、非常に多くの水量(12.7sv)が通過します。貫流はバンダ海の深海盆地の栄養を巻き上げ、コモドのある、フローレス島の南のオンバイ(4.9sv)やティモール島の南にも多くの水量(7.5sv)が流れています。これこそがコーラルトライアングルの真の生命力の源と言われています。
■ 氷河期の海岸線
15,000年前は氷河期の後期にはこのあたりは海水面が現在より-95mほど低く、多様な生物が陸づたいに移動し、交流、交配していました。現在のボルネオ島にも小型の象(島嶼化)が生 息しているのはそのためです。また、虎(バリトラ)も1940年ころまでバリ島に生息していました。一方、サフルランドに生息するカンガルーなどの有袋類 は強力な捕食動物である虎などの肉食動物とは遭遇せずに生息帯域を拡大していきました。
■ ウォーレシア海域
ウオーレスが名付けたウォーレシアと呼ばれているスンダランドとサフールランドの間の海域はほぼ現在のコーラルトライアングルにあたります。こ の海域の複雑な島々の栄養分と海流により、リーフフィッシュが進化、多様化したといれれています。ワラセアからオーストラリア西海岸にかけては氷河期にも、海岸線の変化はあまり見られな いので、近くにあるグレートバリアリーフやニューギニアバリアリーフ等のサンゴ礁は長い期間をかけて発達しました。それぞれが世界1位と2位(2位はベリー ズバリアリーフとも)の長さを誇るバリアリーフとなりました。
■ 氷河期の終了とワラセア
1万年前にようやく氷河期が終わり、海水面の上昇によりマレー半島とスマトラ島とボルネオ島とが切り離されスンダランドは消滅します。この海域の海岸線は海になってからの日も短く、海も深海からの栄養補給もないのでウォーレシアやニューギニア島の北部や東部と比べるとサンゴ等は比較的多様化していません。氷河期以前からの海岸線の変動が少ないワラセアを中心としたコーラルトライアングル周囲の生物の多様化の一因と言われています。
■ 陸上生物の特色
陸上生物についてもインドネシアには固有種が多く、地球上の1.3%の陸地に世界の植物の11%、哺乳類の12%、爬虫類・両生類の7.3%、鳥類の17%が生息しています。 世界最大のトカゲのコモドドラゴンや尾が長く体長ではコモドドラゴンを上回り5mほどにまで成長するハナブトオオトカゲ等の固有種も多く、爬虫類の宝庫とも いわれています。
コーラルトライアングルは海だけでなく、その中の陸地も単位面積あたりの生物種の数は世界中のどこよりも豊富です。
コーラルトライアングル内の生物多様性の中心はフォリピンのルソン島とミンダナオ島の間のヴェルデ海峡とラジャアンパットだという学説もあります。コーラルトライアングルはまさに生物多様性のホットスポットです。